「君の名は。」で宮崎駿監督だけが達成していたアニメで100億円以上の
興行収入を記録した新海誠監督。
今回は新海監督の作品を映画だけではなく、短編アニメーションなども加えて紹介し、
作品の魅力を解説していきたいと思います。
もくじ
新海監督の映画作品は6作品
今まで劇場で公開されてきた新海監督の作品は6作品です。
全作品を見た感想を書きつつ、個人的な評価で星をつけています。
そのまえに少しだけ新海監督の作風について書いていきます。
新海作品に共通して言えるのは「新海ワールド」と呼ばれる監督独自の世界観があることです。
「精緻な風景描写とすれ違う男女の物語を、美しい色彩と繊細な言葉によって紡ぎ出す」
と君の名はの公式サイトに載っていました。
その言葉の通り、新海監督のほとんどの作品では「男女が結ばれない」という展開がほとんどです。
男の子の結末は見ていて正直心が痛むというよりも「鬱(うつ)」な気持ちになります。
これは僕だけの感想ではなく、様々な人が持っている感想です。
ハッピーエンドを望む僕としてはこの監督の「世界観」には物凄く反対です。
「君の名は。」を観る以前から新海監督の作品は何作か観ていましたが
そのどれもが「もう許してあげて!」っていうくらいかわいそうな結末になっていました。
というわけで評価の基準はこの記事のタイトル通り、作品を観て「鬱になった」かどうかが大きく影響しています。(笑)
ほしのこえ ★★
2002年2月2日公開。25分の短編映画。
あらすじ
2039年:
火星にて発見された未知のテクノロジーによって人類は飛躍的な進化を遂げる。
それと同時に地球外生命体「タルシアン」の存在と恒星間を移動できるワープポイントを発見する。
2047年:
地球外生命体「タルシアン」を調査するために1000名以上の選抜メンバーが組織される。
関東某県の中学校に通う長峰美加子と寺尾昇は同級生。
恋愛関係ではなかったが仲の良い2人は同じ高校へ通う予定だった。
しかしミカコは選抜メンバーに選ばれ、宇宙へ行くことになってしまう。
残されたノボルはミカコが送ってくるメールを待つだけの毎日を過ごしていた。
ミカコが地球から離れるにつれ、メールが届く時間が遅くなっていく。
そしてミカコがシリウス星へ行くことになった時、2人の時間のズレは決定的なものになっていく・・・
感想
新海監督の初の映画作品。
驚くべきなのは、この作品を新海監督は1人で制作したということ。
そういった意味では「すごい」のですが、
ストーリーの内容はイマイチ入ってきませんでした。
宇宙と地球の超々遠距離恋愛を実現するためにすべての設定が行われた。
という感じです。
SF作品というよりは時間の残酷さを伝えてくれる映画。
そしてノボルという男の子の人生が台無しになっていることも残酷です。
この男の子への仕打ちが僕にとっての「新海ワールド」です。
個人的には「秒速5センチメートル」を超える残酷な作品はないですが
この作品はそれに次ぐ残酷さです(笑)
批判的になってしまいましたが、すべてはハッピーエンドが用意されていないため(笑)
雲のむこう、約束の場所 ★★★★
2004年11月20日公開。監督初の長編映画。第59毎日映画コンクールアニメーション映画賞受賞。
あらすじ
南北に分断された日本が舞台。
北海道(作中ではエゾと呼ばれる場所)には白く大きな塔がそびえていた。
ユニオンという組織が支配する土地の象徴である塔に
憧れを持つ中学3年生の藤沢浩紀(ふじさわひろき)と白川拓也(しらかわたくや)は
塔を目指すために自分たちでヴェラシーラと名付けた飛行機を2人で完成させようとしていた。
そこに2人が憧れる女の子沢渡佐由理(さわたりさゆり)が加わることになり
塔へ行くことは3人にとって大事な「約束」となった。
しかしその直後、サユリは消息を絶ちそれがきっかけで飛行機作りも中止になる。
それから3年が経ち、別々の道を歩いていた浩紀と拓也は「約束」を果たすために
再び飛行機を作るのだった・・・
感想
「夢」をテーマにした作品。
原因不明の眠りについたサユリが見ている夢に、
浩紀もリンクして夢を見るのですが、2人が出会うことはない。
その夢を通じて彼女との「約束」を果たすことが自分の使命だと悟る浩紀が
ユニオンの塔を目指すのですが、その先に待っている未来が切ない。
切ない結末となってはいるんですが、
「ほしのこえ」や「秒速5センチメートル」に比べると現実的。
結末はハッピーエンドとはいえませんが
「次へ進める」という意味では救いがあるのでアリだと思います。
浩紀もそんなようなことを言ってたので、きっと大丈夫でしょう(笑)
秒速5センチメートル ★
2007年3月3日公開。1つの物語を短編3作に分ける連作構成で描く。
アジアパシフィック映画祭「最優秀アニメ賞」
イタリア・フューチャーフィルム映画祭「ランチア・プラチナグランプリ」を受賞。
あらすじ
「桜花抄」、「コスモナウト」、「秒速5センチメートル」という3タイトルで
構成された2人の男女の時間と心の距離を描いた作品。
舞台は1990年代前半から2000年代前半の日本。
図書館で本を読むことが好きという共通点から
仲良くなった遠野貴樹(とおのたかき)と篠原明里(しのはらあかり)
2人はお互いに特別な気持ちを抱いていたが、
明里の親の転勤で栃木へ行くことになり、小学校卒業と共に離れ離れになった2人。
中学に進学し、今度は貴樹が東京から鹿児島へ行くことになった。
もう明里に会えなくなるのは嫌だと思った貴樹は明里に会いに行く。
無事に会えた2人はお互いの気持ちを確認する。
その時彼女と交わしたキスが貴樹の世界を一変させてしまうのだった・・・
感想
貴樹が明里をひたすらに想い続ける
というのが作品の一貫した軸になっています。
高校・社会人になっても貴樹は明里を想い続けています。
その想いの結末が非常に鬱にさせられてしまいました。
これはもう星1つというよりもマイナスをつけてもいいのではないか?
と思える作品です。
新海監督は
「映画だけではどうも鬱だという方には(笑)小説はお楽しみいただけるのではないかと思います。」
とおっしゃられています。
星を追う子ども ★★★
2011年5月7日公開。
今までと違う作風になり、ファンタジー要素が強い作品。
その為か新海監督の作品の中で唯一の赤字作品となっている。
あらすじ
父の形見である「クラヴィス」の欠片で作った鉱石ラジオ。
そこから流れた唄が忘れられなかったアスナはある日、シュンという少年と出会う。
2人は心を通わせるがシュンは病で死んでしまう。
現実を受け入れられないアスナは転任してきたモリサキという男の
「死者の復活」の話に強い興味を持ち、彼から話を聞く。
太古から死者の復活については様々な文献が残っており
シュンが住んでいる「アガルタ」にもその技術が残っているという。
そしてアガルタからやってきたシュンとそっくりの男「シン」の登場によって
アガルタへの扉は開き、アスナ・モリサキはそれぞれ亡くしたものを取り戻す旅に出かけるのだった。
感想
ジブリ映画と酷評されている作品ですが、新海監督は、
「ジブリ作品に似ているというより、
東映アニメーション、世界名作劇場、と連綿と受け継がれ積み上げられてきた、
日本のアニメーションの典型的な一つのかたちなのではないかと」と言われています。
※詳しくはこちら
個人的にはこの作品はキャラクターというよりもストーリーに問題があると思っています。
アスナやシンのストーリーのはずなのに、主人公がモリサキになってしまっているんです。
旅の目的である亡くしたものを取り戻す理由も
シュンのことはほぼ触れらずに、自分の内面の問題として片づけられてますし、
シンはシンで場当たり的な行動で自分の立場を危うくしてしまいました。
それが成長過程の若者だからと言われればそれでオシマイですが、
一番ブレていないのがモリサキで結局彼が一番目立ってしまいました。
新海監督は「低い年齢層」に見てもらいたいという目的で作られたそうですが、
子ども向きではない、今までと同じように大人向けの作品になっていると思います。
それでも全員が前に進めたという点では「鬱」になる要素はなく、
個人的には悪くないエンディングだったと思っています。
言の葉の庭 ★★★★
2013年5月31日公開。
監督初の「恋」をテーマにした物語。ほとんどのシーンで「雨」が降っているのが特徴的。
あらすじ
靴職人を目指すタカオは雨の日の1限目は決まって庭園で靴のスケッチを描いていた。
ある日、チョコレートと酒を飲んでいる女性ユキノと出会いタカオは彼女に惹かれていく。
「うまく歩けなくなった。」という彼女のためにタカオは靴を作り、彼女を支えようと考える。
靴は完成せぬまま、梅雨は空け、2人が出会う事も少なくなっていった。
しかし意外な形で2人が出会ったことにより、物語は思わぬ方向へ進んでいく・・・
感想
大人高校生の恋物語(笑)
といえばわかりやすいのでしょうか?どちらが教師かわかりません。
これだけ落ち着いた高校生がいるか?というくらい大人びているタカオ。
逆にユキノの方が子供っぽくてかわいかったです。特に最後。
ユキノの声を担当している花澤香菜さんの声が非常に特徴的で
僕には珍しく「いい声しているなぁ」と思ってしまいました。
雨の日だけ出会えるという限定的な条件もロマンティックですし、
足のサイズを測っているだけなのに、あれほど神聖さを感じさせる演出はすごいです。
今回の展開も「鬱」ではなく「未来」へ繋がる終わり方でしたので良かったです。
未来への希望があれば、ハッピーエンドとなるので新海監督の作品を観ている内にこういう展開もありかなと思うようになりました。
君の名は。 ★★★★★
2016年8月26日公開。
映画は日本のみならず125の国と地域で公開され、全世界で2億ドル以上の興行収入になっている。
これは「千と千尋の神隠し」を超え、日本アニメ史上最大の売り上げになった。
小説も100万部以上売れ、新海作品が世間一般に知れ渡ることになった。
あらすじ
東京に暮らす男子高校生立花瀧(たちばなたき)がある日目覚めると、
岐阜に住む女子高生宮水三葉(みやみずみつは)の姿になっていた。
お互いに変な夢だと思い、それぞれの姿で一日を過ごす。
だがその夢はことあるごとに起こるようになっていたので
2人はこれは夢ではなく現実に起こっていることだと自覚する。
入れ替わりをするたびにお互いの心の距離は縮まっていったが
ある日突然入れ替わりが起こらなくなってしまった。
どうしても三葉に会いたい瀧は記憶を頼りに三葉の住んでいる街へ辿り着くが
三葉の住む糸守町は3年前に隕石が衝突し、町ごと消滅していたことがわかるのだった。
出会えるはずのない2人だが、瀧は諦めなかった。
瀧と三葉は再び出会うことができるのだろうか・・・
感想
映画の予告編を見た時から「今までの監督の作品とは違う。」と感じていました。
それは世間的に言われている「ヒットする要素」がたくさんあったからです。
魅力的なキャラクター。ジブリ的な雰囲気。そして監督のストーリーと風景描写。
監督の良い所がすべて結実したような作品になっています。
「これは面白そうな映画だ。」と多くの人が感じ取ったと思います。
そしてそれは想像通りの結果になりました。ここまでヒットするとは思いませんでしたが。
今回は「鬱」要素は一つもなし。
というわけで観ていない方は一度ぜひご覧くださいね。
番外編:その他の作品・ショートフィルム
だれかのまなざし
野村不動産グループによる「プラウドボックス感謝祭」にてシアター映像として作られた作品。
最初は感謝祭のみの限定公開だったが、言の葉の庭の上映時に同時公開された。
- 彼女と彼女の猫
1999年に自主制作されたアニメーション。
2016年3月に新たな制作陣によって制作されている。
猫の集会
2007年のNHKで放送された1分のショートアニメーション。
- クロスロード(Z会)
Z会とのコラボレーション。受験生応援ストーリーになっています。
<
みんなのうた 「笑顔」
2003年4月・5月にNHKで放送された「みんなのうた」の「笑顔」という音楽のMV。
大成建設
大手総合建設会社である大成建設とのCM。
「ボスポラス海峡」「スリランカ高速道路」「ベトナム・ノイバイ空港」の3篇があります。
信濃毎日新聞
- minori作品オープニング
(2001年)
(2002年)
(2004年)
(2006年)
(2008年)
個人的に意外でしたが、新海監督がオープニングを制作した
minori作品とはアダルトゲームのブランドのことです。
新海監督が現在所属しているコミックス・ウェーブ・フィルムの前身の会社にあった
事業が独立したもの。その関係でムービーを制作していたのかもしれませんね。
まとめ
新海監督の作品の個人的評価は、
ほしのこえ ★★☆☆☆
雲のむこう、約束の場所 ★★★★☆
秒速5センチメートル ★☆☆☆☆
星を追う子ども ★★★☆☆
言の葉の庭 ★★★★☆
君の名は。★★★★★
となりました。
というわけで、今回は新海監督の作品を紹介させていただきました。
個人的な評価をつけましたが、あくまでも参考程度に捉えて下さい。
自分で観てみると受け取り方がまったく違う作品だったと思う事も多々あるので
他人の感想よりも自分の目で観て楽しんでくれたら嬉しいです。